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2006年10月 6日 (金)

深夜、斬られた指を捜しに

郁太郎の母「コノ」の女度胸

50人騒動の際、伯父は土肥大作の書生で相当、剣の方も出来ていたのであったが、その時は大作さんの申しつけで、襲撃隊の動静を窺うために外出していたが、今、50人組が押し寄せたと聞くと、韋駄天の如く土橋の見付座をめざして帰ると、門は固く鎖されて、梃子でも開かず、これは遅れたと思う途端、キラキラ光る太刀を持った一連が門を開けて飛び出して来たので、それ!と言いざま、連中と渡り合い、先方に一太刀加えたが、伯父も手首に二箇所の傷を受けた。それから伯父は大作さんに会い、その無事なるを喜び、大作さんの命令で一旦、脱藩して向かい地「中国地方」え逃げようと海岸に向かった。そこにある漁船を奪い取ろうとしたのである。所が、これを見た固陋派の一人が伯父の跡を追ってきた。いきなり斬りつけたが伯父はよし!と刀の鍔で受け止め返す刀で男の肩口をがくりと切り下げ、殺してしまった。その時伯父が持っていた刀の鍔は恐ろしく小さかったので、最初に相手の刀を受け止めた時、切っ先が触って右手の指が切り落とされたのであった。伯父はもう逃げ切れないと思った。今度捕まったら、自分も殺されると観念した。そこで、今生の見納めと、海岸から近い風袋町の我が家え向かった。その時、予の母は、入って来た伯父の手から血潮が噴出しているのを、直ぐに見つけ、手ぬぐいで縛った後、一本足らぬ指の所在を伯父に聞いた。すぐさま、裸足で提灯を下げ、暗い海岸に、ここか、あすこか、と捜し求めて、やっとその指を拾って帰り、伯父の指跡にそれをくっつけたのである。この母の健気な振る舞いについては、流石の伯父も、晩年に至るまで口を極めて感嘆した。お前のおっかさんは若い時はほんとに豪かった。あの晩は月も無く真っ暗で、星も見えなかった。世の中は騒々しく、殊に今、たたき斬ったばかりの屍骸の前にある指を捜すのであるから、普通の人では到底思いも及ばぬ事であろう。コノは若い婦人なのに、直ぐに飛び出していった。大した度胸だとよく予に話した。この騒ぎを契機に伯父は夜中に家を飛び出した。そして出かける前に、祖父に向かい、自分は総領であるが、こうした始末で、とても家の面倒を見ることは出来ぬ、万事は妹のコノに託する。と言って失踪してしまった。こうした事で予の母は年老いた父母を送り、祖先の祭祀を果たしてきたのである。それ故、伯父としては竹森家の出世大将、酬うべきことは何でも出来る自分になっている。この事が、やがて予等3人を引き受け、世話をしようと発心する事になった。然し、当時は予等3人とも、そんな込み入った事情は知らず、一途に東京に対する憧憬を深めるのであった。

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